第7章 姫が居なくなった(三成君)
謙信「俺がどうしようと勝手だ。仕掛けてきたから返り討ちにしただけのこと」
三成「舞様をどうするつもりですか?」
謙信は酷薄な笑みを浮かべて、背後をちらりと見た。
謙信「最初は町娘が迷い込んだのかと不憫に思い、拾っただけだった。だが、ただの町娘ではないとわかり、連れて帰るところだ」
薄い唇が冷たく弧を描いた。
物憂げだった表情に物騒な感情が浮かび上がっている。
謙信「女を使うのは好かんが、信長を引きずり出す材料になるだろう?
まだるっこしい取り引きをするつもりはない。この女を返して欲しくば来いと信長に言えばよいのだからな」
三成「おやめください。その方は本来ならばこのような戦場には相応しくない、心根の優しい方なのですから。返して……頂けませんか?」
謙信「戦乱の世において、何を甘いことを言っている。
女は道具のように扱われ、死んでいくのが理だ」
謙信の物憂げな表情に、嘆きが垣間見えた。
言葉と表情が一致していない気がした。
三成「?」
「謙信様っ……!」
責めるような声に謙信は舞様の方に顔を向けた。
謙信「黙れ、素性を隠して俺に近づいてきた償いをしてもらおう」
「そ、そのことは謝ります」
二人の間に入り込めない空気を感じ、胸が騒いだ。
敵同士の立場で何故この二人がお互いを知っているのだろう。
三成「謙信殿と舞様は顔見知りなのですか?」
謙信「安土の城下で……男に絡まれていたのを気まぐれに助けただけだ」
そういえば舞様は食事処の主人をかばい、ならず者に連れて行かれそうになったところ、居合わせた男に助けてもらったと言っていた。
目が合った舞様は頷いた。
「その数日後にね、お店で悪さをしていた男の人達に追いかけられて、その時も謙信様に助けて頂いたの。命を助けて頂いたお礼に一度だけ、お酒をご一緒しただけ……」
三成「そうだったのですね」