第7章 姫が居なくなった(三成君)
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三成「あれは………」
遠くに見えたのは単騎……白い馬に乗っている。
近づくにつれ、白馬の周辺に数名の男達が倒れているのが見えた。
乗り手を失った馬が数頭、走り去っていく。
(光秀様の読みがあたってしまったようだ)
手綱を掴む手に力がこもった。
(もし……舞様が手にかけられていたら……っ)
倒れている中に女物の着物が見えないようにと願う。
謙信「お前ひとりで来たのか?」
白馬に跨っている人物が私を正面から迎え、着物の色を確認することはできなかった。
早く舞様の安否を確認したいが、この男をどうにかしなければならない。
謙信は軍神の名に負けることなく、他者には無い風格があった。
謙信「石田……三成と言ったか。骨のない男どもの相手にうんざりしていたところだ。相手をしてもらおう。
参謀ごときが、どこまで俺の刀を受けられるか、たかが知れているがな」
謙信は物憂げに刀を構え、私も刀の柄に手をかけた。
「み……つなり……君?」
三成「え………?」
探しに来た愛しい人の声がした。恐怖におびえた声は近くで聞こえ、その出所(でどころ)を探す。
(倒れているなら下から聞こえるはずなのに、そうじゃない)
目線の高さが同じ所から……
そこで初めて、謙信の腹部に掴まっている二つの手が見えた。
(まさか……)
馬を数歩横にずらし謙信の後ろを見る。
三成「舞様!?」
(何故謙信の馬に舞様が?)
生きてくれていたことに安堵したものの、馬に乗せられている事情がわからない。
「三成君っ」
目が合った途端、舞様の目から涙がこぼれた。
謙信が構えている刀には血がついていて、地には倒れ伏した男達。
三成「あなたはもしや…舞様の目の前で…」
自分を探しにきてくれた織田の人間を目の前で殺されてしまった……舞様はどんなにか心を痛めただろう。
真っ青になっている舞様を今すぐ抱き締めてあげたかった。
あなたのせいではないと。最初から私が捜索隊に加わらなかったのが悪かったのだと。