第7章 姫が居なくなった(三成君)
舞様の気持ちを知ったのは大分前のこと。
軍議を終えて自室に戻ると、部屋の前の廊下に座り、猫さんを可愛がる舞様が居た。
「いいなあ、猫さんは。私も三成君と一緒に居たいな…」
(どういうことだろう?)
「私も猫になれば膝に抱っこしてくれて、頭を撫でてもらえるかな?」
舞様は大人の女性なのに、私の膝に座り、頭を撫でて欲しいらしい。
舞様が言ってくれればそのくらいしてあげるのに。
この時代を生きるために慣れない文字や、算盤、乗馬などを毎日頑張っている舞様のためなら、たやすいことだ。
……ここまでは色恋に疎かった私は、何も気がついていなかった。
「勝手に想っているだけなら良いよね。三成くんの邪魔になりたくないし…」
三成「…っ!」
自室に背を向けて、足早にその場を去った。
(まさか…まさか、あの舞様が私を好いてくださっていたなんて知らなかった)
あなたの胸の内を聞いてしまった。
誰でも良いのではなく、猫になって膝に乗り、私に頭を撫でてもらいたいなどと可愛いことを思っていてくれてなんて。
嬉しくないわけがない。
廊下を踏む足は軽すぎて、浮き上がりそうだ。
あなたの心が私に向いていると知っただけで、目に映る全てがキラキラと輝いて見えた。
けれど私は、自分の未来の姿さえ想像できない中途半端な男だ。
目標とする姿を描けない私が、舞様の気持ちを受け止めてしまっては、一時的には幸せでも最終的には舞様を悲しませるかもしれない。
三成「……」
私が武将として目指すものを見つけ、あなたを守る力を手に入れるのはいつだろう。
舞様が私を諦めるのと、どちらが先だろう。
(恋仲になるのなら大切にしたい)
当面は気づかぬふりを通そうと目を閉じた。