第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
「信長様、先程はお騒がせして申し訳ありませんでした。
あつかましいとは思いますが、またこちらでお世話になってもかまいませんか?」
信長「ふっ、消えたり現れたり、せわしい女だ。
お前に与えた部屋はとってある。好きに使え」
「ありがとうございます、信長様」
信長「この間話した通り、近々お前を養女にする」
「わかりました」
信長様は舞が着ている着物を見て、目元をやわらげた。
信長「その後は城ではなく光秀の御殿に行け」
「は……?」
信長「随分と『寂しそう』にしていたからな。
光秀の身の回りの世話なり、針子でもなんても、好きに過ごせ」
「え、光秀様、寂しそうな顔をしていたのですかっ!?」
俺からは直接寂しいと聞けなかったものだから、そこはかとなく嬉しそうに声を弾ませている。
光秀「……信長様の気のせいではありませんか」
信長「では光秀ではなく秀吉の御殿に預けるか?」
信長様が含みを持たせた視線を送ってくる。
(信長様も人が悪いことをなさる)
秀吉「俺なら歓迎するぞ。お前を疑った分、今日からは甘やかしてやる」
「…秀吉様って、こんな兄貴肌だったの…?」
疑われ、警戒していた時の秀吉しか知らない舞は驚いている。
光秀「駄目だ、俺が預かる。
こんな人たらしの女たらしで、信長様ひと筋の男ほど厄介なものはない」
秀吉「なんだそれは!」
「人たらしは聞いた事があったけど、女たらしなの……?
信長様ひと筋ってことは、まさかのボーイスラブ?
も、もしやどっちもOK派?」
舞は俺と秀吉のやり取りを目を点にしてみていたが、何やら意味不明なことを口走っている。
その様子に信長様が肩を揺らして笑った。
信長「舞はここに居る者をまだ知らんだろう。
お前を疎ましく思っている者ばかりではないぞ。しかと見て判断しろ」
「は、はい……」
光秀「手続きが済んだら俺の御殿だ、わかっているな?」
「はい!よろしくお願いします」
俺を見返す目はキラキラと輝いている。
光秀「良い子だ」
俺達の間にはまだ、確たる結びつきも約束もない。
だが直感でわかる。
舞が俺の番になるだろうと……