第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
光秀「目?」
意外なことを言われ瞬いた。
舞は頷いた。
「いつも綺麗な色だなと思っていました。
もう会えないのかと思ったらすごく寂しかったです」
光秀「そうか……」
湯殿の入口が見え、俺と目が合うと女中は頭を下げた。
その隙に舞の額に唇を落とす。
「◎■$▽&*!?」
羽織の下から舞の手が出てきて額を押さえた。
茹だるように赤くなった顔を確認し、胸が満たされた。
光秀「正直に答えられたご褒美だ。綺麗になって出てこい。
お前に似合う着物を選んでおいてやる」
女中「姫様、準備は整っております」
「え、はい、え?い、今、キスを……!」
女中「奇数?」
「あ、いえ。なんでもありません」
女中「お身体が冷えておりますので、お早くどうぞ」
舞は振り返ってこちらを見ていたが、容赦なく女中に戸を閉められた。
戸の向こうから慌てたような舞の声が響いた。
「み、光秀様は女性に手が早いんですかっ!?」
女中「光秀様ですか?いえ、そういう噂は一度もお聞きした事がありません」
「だ、だって、さっき……」
女中「姫様、とにかく今は湯浴みが先です」
「ひとりで入れますっ」
女中「このような泡まみれになっておられるのですから流して差し上げます。
姫様はいつおかえりになったのですか?それにこの泡の正体は一体……」
「わぷっ!!」
ばしゃーん!と湯の音がして、思わず忍び笑いが漏れた。
古参の女中だったから容赦が無いようだ。
光秀「これから楽しくなりそうだ」
自室に足を向ける。
贈る機会がないと知りながら、舞のために用意しておいた着物一式が置いてある。
今度は外に連れ出してやろう。
元の時代には適わないが、お前の居場所を作ってやりたい。
人を知り、場所を知り、物に触れ、少しずつ馴染めば良い。