第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
湯殿に連れて行く途中に話を聞けば、自宅で湯浴み中にまた身体が発光し、こちらに来てしまったらしい。
「光秀様、私、何かの病気でしょうか。
500年後の世でも時を超えるなんてお伽話のような話なんです。しかもこんなにしょっちゅう行ったり来たり……困るんですけど」
光秀「500年後でわからないことを俺に聞かれても困るぞ?おっと…」
気を抜けばヌルっと滑る身体を立ち止まって抱き直す。
直接肌に触れているので、舞は気まずそうにしている。
光秀「しかし500年後の湯浴みはこのように泡だらけにして洗うものなんだな」
泡からは嗅いだことのない良い香りがした。
腕の中で舞がハッと身体を硬くした。
「私がどこから来たか、信長様から聞いたんですか?」
光秀「ああ。お前が消えるところを見てしまったからな。他の者は知らないから安心しろ」
「そうですか…」
光秀「ついでにお前の無実は晴らしておいた。
信長様を2度も助けた天人扱いになっている。以前よりは居心地が良いと思うぞ?」
「天人ですか?私が?ふふ…」
なんですか、その設定は、と笑っている。
帰ってきた温もりと笑顔に、こちらまでつられて笑ってしまいそうだ。
滑って落ちてきた身体をもう一度抱き直すと、舞は申し訳なさそうにして、
「ひとりで歩けますから」
と言った。
髪は後頭部で団子状にまとめているが、あとは泡だらけだ。
滑って転んだらことだ。
光秀「駄目だ、廊下が汚れる。女中の仕事を増やすつもりか」
「……やっぱり光秀様にお願いします」
むぅと頬を膨らませ秀吉の羽織を鼻まで引き上げた。
下ろさなくても泡と水滴が落ちて掃除が必要なのだが、舞は気が付いていない。
光秀「ふっ、最初からそうしろ」
歩き出すと、下から視線を感じた。
「光秀様……」
光秀「なんだ?」
「寂しかったですか?」
光秀「寂しがっていたと思うか?」
「だって別れる直前に居なくなったら寂しいって言っていたから……」
光秀「ふっ、居なくなってせいせいしていたかもしれないぞ?」
「っ……そうですか」
伏し目がちになった顔がみるみる表情をなくしていく。
いじめすぎたようだ。