第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
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秀吉「それで昨日はどこへ行っていたんだ!」
光秀「そんなに大きな声で言わなくても聞こえている」
秀吉「何度言っても急に居なくなるからだろう!?」
天主へ続く階段を秀吉と並んで歩く。
別に並んで歩こうとしているわけじゃないが、秀吉が勝手に俺の隣から離れない。
ガミガミと小姑のようにうるさい小言を左から耳に聞き流す。
秀吉「聞いているのか?」
光秀「聞いているふりをして聞いていない」
毎度同じことを言われているのだから、聞かなくてもわかる。
秀吉「光秀、お前ってやつは~~~」
業を煮やした秀吉が俺の胸倉をつかもうとした時だった。
「え、うそっ!きゃーーーーーー!!」
頭上から声と共にお湯が降ってきた。
秀吉「なんだ!?」
光秀「!?」
同時に頭上を見ると…
女の尻と背中が見えた……。
秀吉「ぶっ!!」
咄嗟に腕を広げた秀吉のところに落ちた女は裸で、髪は濡れ、身体全体は白い泡だらけだった。
「秀吉様!?」
秀吉「舞!?うわっ!ぬるぬるして、滑るっ!」
「ひゃっ、落ちる!」
秀吉が泡で手を滑らせて舞が階段下に落ちそうになった。
光秀「おっと……」
代わりに抱きとめると、舞がビクリと身体を震わせた。
光秀「秀吉、お前の羽織を舞にかけろ」
秀吉「ああ」
秀吉が羽織を脱いでいると、天主の襖が開いて信長様が姿を見せた。
信長「今の女の声は……」
緋色の目が舞を捉えた。
信長「ほう…全裸で降り立つとは、俺のところへ来る気になったか?」
「ちがいますっっっっっ!ぜったい!!!!」
秀吉「失礼だぞ、舞。光栄な話だろう?」
「どこが!」
秀吉「こら、お前性格変わったんじゃないか?」
秀吉が羽織で身体を包んでやりながら窘める。
舞だけでなく秀吉も濡れた犬のような姿だ。抱いている俺もだが…
光秀「とにかくこのままではいられないので、一度湯殿に連れて行きます。済んだら天主へ連れて行きます」
階段下には叫び声を聞きつけた者達が集まり始めている。
「光秀様……」
不安そうに見上げてくる舞に視線を返してやる。
光秀「大丈夫だ。行こう」
「は、はい……」