第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
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国へ帰りたいのだと聞いた時に妙だと思った。
1度もそんな素振りや行動を見かけたことがなかったからだ。
だが今ならばその理由がわかる。
帰りたくても帰れない。だから住まいの世話をしてくれた信長様に感謝していたのだと…。
真相を聞き、御殿に戻ってからは舞のことばかり考えていた。
聞いたことのない言葉や草履の直し方を知らなかったことなど、小さな疑問がこれで解決した。
光秀「500年先の世か……随分と遠い国から来ていたのだな」
掴んだと思ったあの時、確かに温もりを感じたのに俺だけ残して消えてしまった。
右手の平を開き、逃してしまった手を悔やみ……ぐっと拳を作った。
日を追うごとに、『怪しい女』が『気になってしかたない女』になっていた。
俺のような身なら己を偽る必要はあるが、何故舞のような女が素を隠す必要があるのか…。
探っているうちに、惹きこまれていたらしい。
光秀「俺としたことがぬかったな…」
舞を想えば『良かったな』と言ってやるべきなのに、祝いの言葉が一つも出てこなかった。
酷い男だ。
光秀「枕の感想も伝えていないのにお前という奴は……。
居なくなったら寂しいと…言ったろう?」
襖を開け放つと、庭の藤の花が散り始めていた。