第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
信長「消えたか…」
光秀「はい、この目で確かに目撃致しました。
あの娘自身、驚いていた様子でした」
信長「火事の時に持っていた手荷物はどうなった」
光秀「不思議なことに、そちらも同時に消えておりました」
信長「わかった……」
天主には信長様と俺しか居ない。
聞くなら今だろう。
(舞の秘密を知りたい)
しかしこちらから尋ねるより先に信長様が口を開いた。
信長「舞は500年後の人間だ。消えていなくなったなら元居た場所に帰ったのだろう」
(500年後?)
脇息にもたれ、信長様は遠い目をしていた。
信長「火事から逃れた直後、あやつは500年後の世から来たと言ったのが気になってな…。
城に連れてきてから問い詰めると、あやつは証拠を見せると天主に『ばっぐ』を持ってきた。
中に入っていたものはどれも今の日ノ本の技術では製作できない物ばかりだった」
光秀「それであの女の言葉を信じたというのですか?」
信長「ああ。見ただけで納得する精巧なつくりだった。
使用用途はさることながら、それを説明する様子にも嘘は見られなかった。
時を越えた仕組みは舞もわかっていなかったようだが、時々500年後の世のことを話してくれた。支障をきたさない程度にな……」
光秀「………」
先の世から来た人間が過去の人間と言葉を交わすとどうなるか。
(歴史がかわる可能性があるのか…)
舞が鋼の姫になった理由がわかった。
もとは素直な人間が性格を偽り、心を押し込めて守ろうとしていたのは、500年後の日ノ本だったとは。