第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
「私の願いは国へ帰ることですが…こんな可愛いお稲荷さんが叶えてくれるでしょうか…」
光秀「国へ帰りたいのか」
「もちろんです。いつでも帰れるよう、誰とも慣れあわないのはそのためです」
舞がキツネの人形が気に入ったようで、頬を緩めて可愛がっている。
光秀「なるほど、人を遠ざけていたのはそういう訳か」
「はい。詳細はお話できませんが光秀様には迷惑をおかけしているので、このくらいならお話しても良いかなと思いました」
国に帰るために自分を偽り続けている。
そう聞かされて妙に寂しい気持ちにさせられた。
光秀「お前が帰ったら、俺は寂しいぞ?きっと……」
「え……?」
光秀「さて、いってくる」
聞き返されたが二度は言わない。
立ち上がると舞は部屋の入口まで見送りに立ってくれた。
「光秀様、お気をつけて」
返事をしようとして声を失った。
光秀「っ!?」
「!?」
舞の身体がキラキラと星のように輝き始めた。
見張り1「な、なんだこれは!?」
見張り2「消えて……いく」
星屑を纏った身体がスウッと透けて、舞の身体の向こう側が見える。
驚いているのは本人も同様で、自らの身体を見おろし、手が透けているのを確認し、最後に俺を見た。
大きく見開かれた目が何か訴えようとしている。
「……み……で…さ……っ」
身体は目の前にあるのに声がひどく遠い。
こちらに伸ばされた手を掴んだ瞬間、俺の手は空を掴んだ。
光秀「舞っ!」
目の前に居たはずの女が……消えた。
見張り1「き、消えたっ!消えたぞっ!」
見張り2「神隠しだ!」
見張り1「お館様に報告を!」
騒々しく走っていく音が遠ざかる。
あまりの出来事に、無駄と知りつつ部屋の中を見回した。
光秀「……」
舞がいつも身辺に置いていた、おかしな荷物入れも消えていた……。