第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
舞の部屋をたずねた。
光秀「枕を作ってもらったのに使う暇もない。
さっさと済ませて帰ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
ずっと部屋に引きこもっているせいで、肌が不健康に白くなってしまっている。
光秀「…良い子にしていろ」
「私は子供ではないですよ?」
光秀「俺から見れば幼く見える」
この女は素で振舞えばおそらく秀吉並みに素直だろう…。
軟禁を解いて、外に出してやりたい。
光秀「片が付いたら遠出に誘ってやる」
え、という顔をして、すぐに表情を固くした。
「結構です。馬に乗れませんから」
光秀「つれないな。京から安土まで政宗の馬に乗ってきたんだろう?あいつの馬に乗れたなら俺の馬にも乗れる」
「結構です」
苛立ちを含んだ返答に、狙い通りだと口の端が持ち上がった。
光秀「ならば諦める。だが遠出を断った詫びに、これくらいは受け取ってくれるだろう?」
「え?何も要りません…あ…」
稲荷神社で売っていたキツネの人形を手に握らせる。
子供向けに作られたそれは愛嬌があって舞が好みそうな顔をしている。
光秀「枕の礼だ。御利益があると良いな」
「…っ、ありがとうございます。光秀様」
要らないと言った口が、手のひらよりも小さい人形に歓び、緩んでいる。