第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(姫目線)
そんな話が大広間でされているとは知らず、私は庭に降りて部屋に生ける花を探していた。
女中さんが用意してくれた花は綺麗だったけれど香りが強かったので、それは廊下に飾り、違う花を見繕いに来た。
(あ、このお花…綺麗。私の屋敷にはないお花だわ)
黄味がかかった白い花に近寄り、香りを確かめ、何本か刈り取って水桶に入れる。
(このお花に合わせて、こっちの小さな花と葉も……)
水桶に入れた草花を手でひとまとめにして、花瓶に飾った時の姿を想像する。
(うん、良い感じ。謙信様がお花に興味があるかわからないけど、お忙しい方だし…少しでも癒されてくれるかな)
小姓見習いとして一緒に居ることは多いけど、言葉を交わすことはないし、視線が合うこともない。
お酒や戦が好きで、忙しい身だということしかわからない。
整った顔立ちからは疲れも憂いも浮かんでおらず、ただ冷えた眼差しと淡々とした態度が印象的だった。
「ん?」
視界の隅で何かが動き、そちらを注視すると……
「うさぎ……っ!」
庭にうさぎが居るのは遠目で見ていたけど、愛くるしい姿をこんなに間近で見たことはなかった。
(きゃー!可愛いっ!さ、触っても良いかな…)
周囲を確認して、ひと撫でする。
「モフモフしてる…く~~~~~可愛い!」
(癒されるっ!もっと触りたい)
悶え歓び、柔らかなお尻に手を伸ばし…やめた。
謙信様が可愛がっているうさぎに触れるなんて、きっと見つかれば怒られてしまうだろう。
「さてお花を持って行かなくちゃ……ぁ」
謙信様と家臣達が廊下を歩いてきた。