第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(第三者目線)
その数日後。
謙信「兼続、これは何だ。俺の部屋にも置いてあったが」
大広間で執務を執り行っていた謙信が、ふと目についた物を指し示す。
床の間の隅に水が張られた陶器の器に、和紙で折られた花が控えめに咲いている。
兼続「それは尚文の手製のもので、空気中に水を撒く道具です。
紙の花が陶器の水を吸い、蒸発させることで空気の乾燥を防ぐはたらきがあるそうです。
最近空気が乾燥しているので、謙信様が喉を傷めないようにと。
確認しましたが、これといった怪しい仕掛けもありませんでした」
同席していた佐助が『加湿器か』と小さく呟いたのを謙信は聞き逃さなかった。
謙信「加湿器とはなんだ?」
佐助「先ほどの兼続さんの説明の通りです。空気中に水分を補うからくりのことです。
加湿という概念があるんですね…」
信玄「女達ならば乾燥には敏いだろうが…この春日山では乾燥に気を配ってくれる気の利いた男は居なかったな」
兼続「代理なので本格的な仕事を与えておりませんが、細かい所に気が回る点は優秀かと」
幸村「謙信様の刀を受けとめて、立ち上がったんだろ?なよなよした身体で意外とできるよな」
佐助「できるなら俺と幸村に代わって、謙信様の相手になって欲しいものです。
今度スカウトしに行こうかな」
幸村「すかうと?」
幸村が首を傾げたところで謙信が大仰に息を吐いた。
謙信「あれに俺の相手はつとまらん。余計なことをするな」
信玄「謙信の相手はつとまらなくとも、刀を受け止めたなら小姓としては充分そうだな」
謙信「ふん」
兼続「信玄様、尚文は代理で来ているだけですので小姓にはなりません」
信玄「才能があるなら一人や二人増えたところで構わんだろう?兼続だって、謙信に忠実な部下が増えるのは大歓迎なんじゃないのか?」
兼続「…それは私には決定権のないことです」