第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
(しゃあぷ?)
初めて聞く単語に舞の秘密が隠れている気がした。
光秀「…そうだな」
適当に相槌を打っておいた。
舞はちまきと目線を合わせるように身体をかがめている。
「アルビノなのかな。でも目は赤くないね?」
(あるびのとはなんだ?)
それなりに知識を有している方だと思うが、舞の言葉が理解できない。
光秀「そのままで良いから聞いていろ。
毒を仕込んだ着物を贈ってきた人物は特定できた…が、どうやら簡単な話ではなく、その背後に黒幕が居るようだ。
今は黒幕が誰か探っているところだ」
「ではもうしばらくこの部屋に居なくてはいけませんね」
光秀「退屈だろうが我慢していろ」
舞はちまきの背から尻尾の先まで、するりと手を滑らせた。
「いえ、我慢というほどでは…。もともとあまり部屋から出ないようにしていたので、苦ではありません」
俯き加減になった頬に前髪がこぼれた。
この城に来てから、一度も髪を切っていないようだ。
前髪が短かった頃は隠れていた額が露わになっている。
女中の話では物ひとつ欲しがらず、必要な物があっても手持ちのものでなんとかしようとするらしい。
城に来た当初贈られた物には、ほとんど手をつけないまま仕舞いこんでいるそうだ。
最低限しか口をきかず、身の回りのことは全て自身でやり、愛想笑いひとつ浮かべない鋼の姫、それが広く知られている顔だ。
だが照月や猫さん、チマキと遊んでいる姿は全くの別人。
光秀「お前は…もともとの性格は『鋼の姫』ではないだろう。
なぜ頑なに人を遠ざけている?」
「関わりたくないからです」
光秀「なぜ?」
「何故そのようなことをお聞きになるのですか」
質問に質問で返される。
会話を誤魔化すための常套手段だ。
光秀「さあな…」
近寄ると離れ、厚い壁をつくる。
舞という女に興味が湧いた。