第6章 姫がいなくなった(光秀さん)
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事件は起きた。
家臣1「この女がやったんだ!」
家臣2「今しがた見つけたようなふりをしてわざとらしい!」
献上品の着物に毒針が仕込まれているのを、舞が偶然見つけた。
あと少し気がつくのが遅ければ信長様は命を落としていただろう。
その場に居合わせていた信長様、秀吉、俺は見ていた。舞が針を素手で触り、
「針から何か甘い香りが………」
と、顔を寄せたところを。
信長「待て」
1番近くに居た信長様は舞の手を掴んで止めて、着物は秀吉に預けた。
毒を仕掛けた者が、直接触り、匂いを嗅ごうとするはずがない。
毒の種類にもよるが、皮膚や鼻の粘膜から侵入する毒もあるのだから。
光秀「誰か、水の用意をっ!」
女中が木桶に水を用意して持ってきた。
その間、信長様はずっと舞の手を離さなかった。
何も知らない舞が、毒のついた指であちこち触らないためだったが、家臣達は下手人を捕らえているのだと勘違いした。
家臣1「とうとう尻尾を出したな、この女狐っ」
家臣2「投獄しろっ」
まったく、どこをどう見ればそうなるのか…家臣の目は節穴か…。
それともわかっていながら舞を陥れたいがために、わざとそうしているのか…。
水を受け取り、信長様と舞のところに運ぶ。
光秀「お静かに願いたいものですな。
信長様の命を身を呈して守った姫に暴言を吐くのはやめてもらおう」
信長様は木桶の前に舞を座らせると着物の袖をめくった。
俺は手首を掴み、水で指先を丁寧に洗ってやる。
舞は黙っているが、毒と聞いて厳しい顔をしている。
家臣「なっ!?なんですと?」
気色ばんだ男達に信長様が直々に説明した。
信長「毒を塗った針を自ら触り、甘い香りがすると顔を近づける者が居ると思うか?」
家臣「ですが信用を得るための演技である可能性もあるのでは?」
素性を伏せている舞に無実を証明するのは難しい。
(ならば……)
光秀「毒針を仕込んだ犯人をこの明智光秀が挙げてみましょう」
「えっ……」
その場に居た全員の視線が俺に集まり、舞の小さな声が……耳に心地良く響いた。