第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
(何とか謙信様にかまぼこを食べさせられた!
うぅ、もう羽織から出ていいんだよね…?)
全ての神経を使い切って脱力していると、謙信様が不意に動き私の腕を掴まえた。力が抜けていた身体はズルズルと良いように引っ張られる。
(なにっ?なんなの———?)
あっという間に謙信様の膝の上に座っている。頭からかぶっていた羽織が邪魔で首をふるふると振れば、謙信様が羽織をどかしてくれた。
(なんで抱っこ……?)
ポカンとして見れば、謙信様は大層ご満悦といった顔だ。
義元さんが言っていたとおり凄く機嫌が良さそうで、なんならこのまま抱きしめられるんじゃ?という雰囲気だ。
「謙信様?どうしてそんなに笑っているのですか?」
童話に出てくる頭巾をかぶった女の子でもあるまいし、なんて聞き方だ。
いつも薄淋(うすさび)しい人の満ち溢れた表情が、思考をおかしくさせている。
信玄「姫に抱きしめられて物を食わせてもらったんだ。
いじけてたのも忘れるよな~?」
(いやいや、そんなわけ絶対ないでしょっ)
女性が視界に入っただけで不快だ、立ち去れと言っていた人が、かまぼこを食べさせてもらって喜ぶわけがない。しかし私の予想は見事に裏切られた。
謙信「なぜ笑っているかなど、舞がかまぼこを食べさせてくれたからだろう。
わかりきったことを聞くな」
「喜んでもらえたのでしたら…良いですけど」
謙信「良い時を過ごせた。礼を言おう」
ご褒美とばかり髪を上から下へと撫でられた。
(謙信様の距離感がおかしくない?
私を庭のウサギと間違ってない…よね?)
驚愕している間も謙信様の手はスルリスルリと髪を撫でる。
(出かける前に丹念に櫛をかけといて良かった、じゃない!
皆の前で恥ずかしい…やめてって言えないし)
真っ赤になって顔を伏せると、謙信様の頬が桜色に染まった。