第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
「幸村ぁぁ~~~~。
あとでワサビてんこもりのかまぼこを口に放り込んでやるんだから覚えときなさいよ」
恨みがましい捨て台詞で幸村を脅して、しかし手は慎重に動かした。
義元「舞、そんなに怖がらなくてもいいよ。
謙信がとっても嬉しそうだ」
「義元さんまで、そんなことあるわけないじゃないですかっ。
うぅ……心臓がとまりそう…」
情けない嘆きに男性陣がハハっと笑い、謙信様の背も震えているけど、私はいつ怒りを買うかと笑えない。
兼続「いいから舞は集中しろ。
謙信様のご尊顔を汚してみろ、罰として春日山の廊下を顔が映りこむまで磨いてもらうからな」
「え゛っ」
(春日山城の廊下なんて、どれだけ長いと思ってるのよっ)
罰ゲームをやりたくないがために箸を持つ手に力がこもった。
信玄「ん~もう少し上かな」
「え?どのくらいですか?」
佐助「だめだ舞さん。
信玄様のトラップだ。少し上じゃなくて少し下だ」
幸村「ははっ、謙信様のどこにかまぼこ食わせる気だよ」
「もー!幸村はちょっと黙ってて!」
謙信「舞、お前がそこでしゃべると…っ…こそばゆい…」
「えっ……」
謙信様の恥じらうような声に集中力はプツリと切れ、代わりに指の先まで熱くなった。
佐助「ピピー!イエローカードです、謙信様。
公正さが失われるので謙信様は喋ってはいけません」
謙信「む…」
「それで、ゴホン……結局上なの下なの?」
照れた謙信様は貴重だったけど、ここは仕切り直しだ。
早くこの二人羽織を成功させ、羽織の中から出たい。
兼続「鼻の高さで止まっているところだ。少し下げろ」
「ここが鼻なら、口はこのへん…?
あ、でも謙信様は顔ちっちゃいから……やっぱりこのへんかな。
謙信様、あーんしてください」
幸村「ぶっ、謙信様に『あーんしてください』はないだろ」
「位置が合っていても口が開いてなきゃ食べさせられないでしょ!」
羽織の中で怒り心頭、ブーブー文句を言っていたけれど、箸が軽くなった感覚に安心して腕を下げた。