第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
3人で歩きだし、私の隣で佐助君が卵、酢、油、塩で完成する調味料ですと説明している。
楽しみだなと明日に想いを馳せていると、足元の注意がおろそかになっていたのだろう、伸びた木の根っこに足を引っかけてしまった。
(おっと……)
よろめいたところを兼続さんが支えてくれた。
佐助君と話していたから後頭部に目がついていない限りこっちは見えないはずなんだけど、兼続さんの視野は360度なんだろうか。
「すみません、ありがとうございます」
兼続「その目を節穴と呼ばれたくなければまともに歩け」
「う…それってもう節穴呼ばわりしているのと変わらないですよね」
兼続さんは涼やかな目元を和らげた。口調は相変わらず辛辣なのに、花の下で笑うこの人は悔しいくらい格好良い。
兼続「そんなことを気にしている暇があるなら足元を見て歩け。
お前が怪我すると謙信様が心を痛める」
「は~い」
この間ちょっとした擦り傷を作ったら兼続さんの言う通り謙信様は酷く動揺していた。
私に擦り傷を負わせた誘拐犯を、謙信様が口では言えないような責め苦にあわせたと佐助君が教えてくれた。
どうしてそこまでしたのか本人に聞いたら『舞に手を出せばこうなるという見せしめだ』と言っていたけど、その隣に居た信玄様は『私情で傷めつけていただろうが、このへそ曲がり』って呆れていた。
謙信様の私情がなんなのか聞かないままだったなあと思っているうちに花見の席に到着し、信玄様と謙信様の真ん中の席におさまった。
信玄「姫、花見は楽しめたか?」
「ええ、あっちは菜の花も見えてとても綺麗でした」
謙信「景色を愛でるのは良いが、長く離れるな」
信玄様は和やかに迎え入れてくれたのに対し、謙信様は不機嫌だ。
謝ってもたいした反応もなく、徳利を持ってみたけれど謙信様が杯をこちらに寄越してくれないのでお酒も注げない。
ちょっと落ち込んでいると信玄様が盃を寄越してくれた。