第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
ザァ……
花と緑の香りがする風に吹かれて、枝を離れた花びらがチラチラと白っぽく光って見えた。
桜を1日でも長く見ていたいから、その儚い光が切ない。
桜が散って春が終わり、夏がきて…
私は何も決められずにいるのに、そうやって季節がどんどん移ろっていくのが怖い。
佐助「これ以上風が強くならなきゃいいな。
せっかくの桜が散ったら残念だ」
「咲いたばかりだからまだ散って欲しくないなぁ。
なんかさ、現代で見ていたよりもこっちの桜の方が綺麗に見えない?」
佐助「俺も去年そう思った。
品種のせいというよりは限りなく自然に近い状態で眺めているかもしれない」
「現代と違って提灯とかぶら下がってないしね。
大学生や社会人の団体が盛り上がって宴会してるとか、屋台のコンプレッサの音とか、そういうのがないからかな、桜に集中できて凄く綺麗に見えるよ」
短い下草の緑、桜色の花びら、菜の花の黄色、それらを引き立たせる青空。
楽しそうに飛び回って、高らかに愛を謳う鳥たち。
現代で見逃していた自然の姿に惹きつけられる。
生命が息吹く力強さを前にして、私自身はまだ冬眠中の種みたいだ。
殻は硬いまま、胸に芽吹くものはない。
(でも桜に集中できない現代のお花見も…懐かしいんだよね)
結局また迷う。どちらの花見が良いか自分でもわからないのは、現代と戦国時代のどちらを選ぶか決心できないから。
いつしか私と佐助君は屋台で好きだったものを教え合っていた。
小さい頃はりんご飴が好きだったとか、お面が欲しかったのに買ってもらえなかったとか、具が少ないのに何故か美味しく感じる焼きそばの不思議とか他愛もない話だ。