第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
(おまけ)
一方その頃の春日山では………
兼続「ぬいの着替えを忘れるとは迂闊だったな」
舞が旅立ちの際に兼続に預けたのはぬい本体のみ。
舞としては紛失を避けるために預けたのであって、着替えをさせるといった推し活まで求めていなかった。
よってあえて本体のみを預けたのだが、舞が思っていたよりも兼続はぬいに献身的だった。
寝る時になって着替えが無いことに気づき女中に持ってくるように頼んだ上、その女中達が着替えを見つけられずにもたもたしていると、わざわざ舞の部屋まで足を運んで一緒に探したくらいだ。
兼続「舞が作っただけあって、寝間着の再現がよくできているな」
ぬいが謙信とそろいの寝間着姿になったのを、兼続は満足そうに眺めている。
兼続「さて寝るとしよう」
謙信の代わりに政務をこなすために明日は早起きしなければいけない。
明かりを消そうとした手が不意に止まった。
兼続「ぬいをどこに寝かせるべきか。
たしか舞は謙信様が不在の時は一緒に寝ると言っていたか…」
ならば共に寝ようと寝てみたのだが、ぬいとはいえ敬愛する謙信と布団を一緒にしていると思うと目が冴える。
兼続「む……、こんなむさ苦しい場所に寝せるべきではないな。
謙信様の部屋にお連れして褥に寝せるべきか。しかし見張りもたてずに盗まれでもしたら面目が立たん。
その場でぬいを見張るべきか…」
城主の部屋にあがりこんで、ぬいぐるみと一夜を明かす。
普通に考えればおかしな話なのだが兼続は本気で悩んでいる。
兼続「しかし今夜は寒い。部屋までお連れしたとして火の気がなければ寒かろう…」
仕方なく兼続の部屋で寝かせることに決め、とりあえず厚手の手ぬぐいを出してきてぬいに巻きつけてみた。
兼続「これでは足りないな。火鉢を使うか」
就寝前に火の始末をした火鉢に再び火を入れる。兼続は火鉢の傍にぬいを置いたが、何か納得できない顔で持ち上げた。
この時点で寝ようとしてから1時間が過ぎている。