第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
謙信「とうに…そうなっている。舞の愛を得て、この身は常に幸せに満ちている。
すでに満たされている俺を、これ以上に溺れさせる気か?」
「ええ、もっとです!
息が止まるその時に私の愛で包んであげられるようになりたいんです」
謙信「俺は……今、この時も舞が愛しくてたまらない。
心の臓が止まりそうだ」
「ちょっ、息が止まるまでって、寿命をまっとうした時のことですからね?
今、心臓を止めてくださいってことじゃないです!」
本当に苦しそうに息をする謙信様の胸をごしごしとさすってあげると、やっと落ち着いてくれた。
「もう、びっくりさせないでください」
謙信「舞が先に俺を驚かせたのだろう?だがお前の気持ちは嬉しい。
俺達の間を死が分かつ瞬間も、互いの愛に包まれるよう愛し合っていこう」
「はい!けど本当は謙信様と離れ離れになりたくないです。
もし謙信様が死ぬ時は、あなたの手で私を殺して欲しいです」
謙信様がさっきよりも苦しそうに胸を押さえた。
「謙信様、大丈夫ですか?」
私の声に反応した佐助君がこちらを振り返った。
佐助「あれ…謙信様、胸をおさえたりしてどうしたんですか?
カップめんで胸やけでもおこしましたか?」
病気をまったく疑わず、胸やけを心配している。
まったく動じないところが佐助君らしい。
謙信「問題ない。いいから進め、佐助。
それから舞」
佐助君の反応がおかしくて笑っていた私は、ギラッと光る眼に射抜かれて肩がビクンとなった。
「は、はい!?」
謙信「生まれ落ちた日を祝うと言っておきながら俺を殺す気か。
今夜は眠れぬと思え」
「殺すつもりだなんて…」
謙信「無自覚とは恐ろしいことをする。
俺に愛される覚悟しておけ」
「それだとだめなんです。私が謙信様を愛したいと言っているんですっ」
謙信「っ」
微妙なすれ違いをみせたまま旅は続き、謙信様は何度も胸をおさえて息が苦しいと訴えていた。
そんな謙信様が愛おしくて、馬上でなければ抱きついていただろう。