第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
謙信「当たり前だ。湯に浸かっている途中で具合が悪くなっては大変だからな。
………その場で舞を食ってしまいそうだが」
(く、食うって、つまりお風呂で抱こうとしてるっ!?)
「駄目です!それはいけません。
お風呂は皆で使う場所なんですから」
全力でお断りすると、腰に回った腕に力こもった。
謙信「舞の無事を確かめたい。
ちゃんと声が出るか、芯まで温まっているか、心の臓が跳ねるか…。
早く舞を抱いて確かめたい」
ストレートな言い方にすでに心臓がドキンドキンと跳ねている。
「ご、ご飯も食べてお話しているのにまだ不安なんですか?」
謙信「ああ。俺が息を分け与えるまで舞は息をしていなかった。
わずかの間だがお前は死んでいた。それを思うと不安で溜まらない」
不安をぶつけるように深く唇が重なる。
謙信「舞…俺を置いて死ぬな……」
口づけの合間に悲壮な呟きが落ちてきて謙信様は私に縋りつくように抱き込んだ。
伊勢姫の件もある。私が死にかけたことで簡単に不安を拭えないのだろう。
生きていることを口づけで教えられたらと舌を絡ませると、謙信様の舌使いが更に激しいものに変わっていった。
「んっ、ふっ……ぁ」
口づけで酸欠になる中で、あることに気が付いた。
(あ……。私が謙信様の愛に溺れ死んだらダメだ……)
謙信様の愛に溺れて死ねたらいい。
そう思っていたけど、それは謙信様が生きていて私を愛している状況で『先に死ぬ』ということだ。
「ん、謙信様……」
謙信「なんだ」
ため息がでるほど美しい相貌を見つめながら囁いた。
「私の愛であなたを溺れさせたいです」
色違いの瞳がくっきりと見えるくらい目を見開いて、何か…そう、息をするのが辛いといった感じで胸を押さえた。
薄い唇から酷く愛おしそうで苦しげな声が漏れた。