第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
「だから……あれ?」
言おうとして言葉に詰まった。
(両親、お姉ちゃん…は違う)
すぐ思い出せないもどかしさはなんだろう。
(大事な………誰?)
大事な人なのに名前が出てこないし顔も出てこないなんてこと、あるだろうか?
性別は男性のような気がしたけれど、それ以上の人物像はでてこなかった。
(絶対大事な人なのに、いったい誰のことのなの?)
思い出そうとしても記憶の闇が深まるばかりだった。ケーキを食べたことがないというヒントから世代的に祖父母が候補にあがったけど、私が幼い頃は一緒に誕生日ケーキを食べていたし、なにより二人とも他界している。
誰かわからないとは言えず、といって間を持たせるにも限界があった。
「アハハ、実は推しキャラが誕生日なの!」
彼がぶっと吹き出した。
彼氏「お前の推しキャラって鼻の周りだけ白い黒猫だろ?
そっか猫ならケーキ食ったことねえよな」
「うん、そう……」
彼は納得してくれて、私は顔もわからない誰かのために『甘さ控えめ』とポップにあった抹茶ケーキを買って帰宅したのだった。