第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
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母「ねえ、やっぱり1人旅なんて危なくないかしら。
今からでも止めにしたら?」
「前日キャンセルしたら100%とられちゃうからもったいないじゃん!
危なくないし危ないこともしないから安心して」
ソファに寝そべっり本屋で導かれるように手にしたトラベルガイドを読みながら、母の提案を却下する。
父「最近海外の客も多くて大混雑してるそうだし、ちょっと心配だな」
「だからせめてもと思って修学旅行の時期は避けたし、ネットですいてる時間帯とか穴場スポットを調べてあるから大丈夫。
暗くなる前にホテルに戻るから安心してよ」
ぺらっとページをめくり織田信長の紹介文に目を通す。
(本能寺の変で織田信長は命を落とした、か…)
和室に充満する白い煙と障子の向こうに揺れる炎。
とてもリアルに想像できるのは時代劇のおかげだろうか。
(でも…)
本能寺の変は名場面だろうけど時代劇を見るほど、私は歴史に興味がない。
じゃあ、このリアルな想像はどこからきたのか。変だなと思いながら、そう深く考えることなく次のページをめくった。
旅行が近づくにつれて、私の中に『この旅行は必ず行かなければいけない』という謎の使命感にとらわれていた。
(明日、やっと出発だ…)
旅行前日を迎えるまでに度々事件がおこり、もうすぐ旅行だというウキウキした気持ちに水をさしてきた。
ホテル側の手違いで『部屋がとれていなかったからキャンセルにさせてくれ』から始まったトラブルは、新しい職場から『前倒しで働きにきて欲しい』とか、今の職場からも『引き継ぎに問題がおこってる』とか、きちんと手続きを踏んだことにまで及んだ。
あんなに仲の良かった彼氏とも急に上手くいかなくなって別れてしまったし、私の運は悪い方へ向かってるとしか思えない。