第5章 姫がいなくなった(元就さん)
明かりが消されると部屋の中は真っ暗になった。
暗い部屋に舞の忍び笑いが聞こえてきた。
元就「……何ひとりで笑ってんだよ。薄気味悪いぞ」
「だって……この布団…元就さんの匂いがして、良い香り………」
元就「っ、待て、どんな匂いだ!」
元就がソファから起き上がる音がして、舞の掛け布団が勢いよく捲られた。
元就「…何も匂ってないじゃねえか!」
「いい匂いしますってば!自分の香りだから気が付かないだけですよっ!
私だって自分の匂いがどうかだなんてわかりませんし」
元就「嗅がせろ」
元就の鼻が舞の首筋に迫った。
「えぇっ!?や、ちょっと、エッチ!セクハラ!」
元就「悪くないな。それに不快にも感じない。
お前となら一緒に寝られそうだ」
「………は?」
戸惑う舞をよそに元就は遠慮なくベッドに入ってきた。
「ちょ、ちょっと…元就さん?潔癖症はどうなったんですか?
私、頭から除菌スプレーを浴びてきた方が良いでしょうか」
枕の隣に枕を置かれ、舞はベッドの端に移動した。
元就「必要ない。それより大事なこと、ひとつ忘れてんじゃねぇか?」
無遠慮に元就がベッドに横たわり、スプリングがギシリと鳴った。
「大事なこと……ですか?」
元就「今日は卯月の16日だ」
仰向けで寝ていた舞は身を起こして、時計なんかあるはずもないのに室内を見まわした。
「嘘っ!!今何時?まだ日付越えてない!?
元就さん、誕生日おめでとうございます!」
元就は身体を舞の方に向けて、肘をついた。