第5章 姫がいなくなった(元就さん)
元就「落ち着いたか?」
「は、い」
舞はこめかみを抑えて、ひじ掛けに寄りかかっている。
さっきの出来事が余程こたえたのか、恋が実った直後だというのに顔は真っ青だ。
「はぁ……」
ため息を連発している。
舞が現れるまでの自分のようだと、元就は気づかれないように笑った。
元就「お姫さん、気分がすぐれないところ申し訳ありませんが、その袋の中身はなんですか?」
松寿丸だった頃の口調で話しかけると、舞は顔をしかめた。
「松寿丸さんの時の元就さんは嫌です。怖くて悪そうな元就さんの方がずっと好きです」
文句を言いながらも手は動かし、舞は袋から次々と物を取り出す。
元就には見慣れないものばかりが出てくる。
「しばらく帰っていないうちに、あちらでは除菌グッズが増えていて、目移りしてしまいました。目には見えないばい菌やウイルスなどの…悪いものをやっつける道具…と言えばわかりやすいでしょうか。
環境に優しい100%天然素材で作られた石鹸と、除菌スプレーに、アルコール消毒液、携帯用除菌シート、使い捨てのゴム手袋です」
元就「……全部俺にか?」
「はい。元就さんのために買ってきたんです。私が居る世では、元就さんのその症状は『潔癖症』という病名がついているんです。
気休めにしかならないかもしれませんが少しでも安心して日常を送って欲しくて、色々買ってきたんです。
あと元就さんにいつか話したオムライスを作ろうと思って、材料を揃えてきました。細かい説明は明日しますね…。なんだか眠たくて……」
緊張もほぐれ、時間は日付を変わる直前だ。
ふわぁ、と舞があくびをかみ殺している。
元就「お姫さんはオネムの時間のようだな。ベッドを使っていい。早く寝支度をしろ」
「はい」
夜着に着替え、髪を梳かした舞は『湯浴みはあっちですませてきました』とベッドにもぐりこんだ。