第37章 姫の年越しシリーズ(2025年)・1月1日
「良い運までひっくり返したくなかったんですね。
信長様は好きな方がいらっしゃるんですか?」
いるわけないよね~と軽い気持ちで聞いたら、前を向いて歩いていた信長様が唐突に私の方に顔を向けた。
迫力のある重々しい美貌に息が止まる。
緋色の目が魔眼のように光り、信長様は怖いけど誰が見ても格好いい……と思う。
信長「いる。成就するならばそれをひっくり返されてはかなわん。
おみくじなんぞに引っ掻き回されるのは好かんがな」
(うそ、いるのっ!?)
びっくりしたけどおみくじは不信用だが好きな人に関係するから無視できないなんて、信長様の人並みの感覚に初めて共感を覚えることができた。
「信長様も恋に振り回されるときがあるんですね。安心しました。
しかし信長様の場合、ゆくゆくは政略結婚しなきゃですよね?」
うろ覚えの歴史の記憶だと信長様は帰蝶という女性と結婚したはずだ。
私の名前を掠めもしない帰蝶という名前にどうしてか胸が痛んだ。
信長「今の俺に政略的な婚姻など必要ない。
そのようなものが無くとも同盟を組み、仲間に引き入れることは容易い」
(この感じだと政略結婚の話は出ていないみたい?おかしいな…)
もしかしたら歴史がまた変わろうとしているのかもしれない。
死ぬはずの人が生き延びたのだからそれくらい大きな変化が生まれてもおかしくない。
「信長様の好きな人か、フフ、想像もできませんが素晴らしい方なんでしょうね。
どんな方か聞いてもいいですか?」
繋いだ手にわずかに力が籠もり、珍しく信長様が躊躇の沈黙をした。
「信長様…?別に無理にお聞きしているんじゃありません。
信長様が幸せになっていただければ私はそれでかまいません」
信長「ならば今夜このまま天主にくるか」
「………ぇ」
どういうこと?と目をぱちくりして安土城の門をくぐった。会話が途切れなく来たからあっという間に感じた。
(なんでさっきの流れで天主に誘われたの?)
よく考えなければダメな気がして玄関で足を清めてもらっているあいだ真剣に考えた。