第37章 姫の年越しシリーズ(2025年)・1月1日
私が返した大凶おみくじを信長様が興味深く見直している。
信長様に想い人とか恋人とかイメージは湧きにくいけど、大凶おみくじには褒める点がそこしかない。
(信長様に恋人ができたら、お餅つきや今日みたいに顔を描いてあげることもできなくなるのか……)
そのことが妙に引っかかってとても残念に感じられた。
子分たるものボスの幸せを1番に考えるべきなのに、魚の骨が喉に引っかかったような感じがいつまでも消えなかった。
その日がきたら信長様を喜ばせる役目をいさぎよく譲れるよう、今から心構えしていたほうがいいかもしれない。
「境内に結びつけて帰れば悪い運がひっくり返ると立て札に書いてあります。
結んで帰りましょう」
今年の初詣はやけに切なくさせられる。
気分を変えるためにおみくじを結びに行こうとする私を信長様がひきとめた。
信長「住職に確認したいことがある。そこで待っていろ」
「ええ、わかりました」
信長様は住職を呼び寄せて何か話している。
たくさんの小さな火に淡く照らされて、信長様の精悍さに拍車がかかっている。
晴れ着用の華やかな外套の着こなしも抜群によく、立っているだけでため息が出るほどだ。
(信長様は本当に格好良いな…)
見惚れながら何を確認しているのか気になった。
ただ立って待っているのが一番寒い。すっかり冷えた指先にハアと息を吐きかけて温めていると信長様が戻ってきた。
信長「寒いか。これを結んで帰るぞ」
「はい」
何を確認したのか聞きそびれたまま近くの枝に手を伸ばすと、暗がりの枝がよく見えるようにお付きの人が提灯を掲げてくれた。
「ありがとうございます」
安土の姫として暮らすようになってから気が引けるくらいVIP対応で、現代ではただの一般人なのにと気後れしてしまう。
(早く結んじゃおう)
前の人が結んだおみくじに雪が積もっている。結ぶ場所にめどを付けて雪を払ってからおみくじを結んだ。
大吉だから持って帰りたかったけど信長様に合わせて結ぶのも良い記念だろう。