第37章 姫の年越しシリーズ(2025年)・1月1日
困っている私を心配している顔だ。秀吉さんはあと数秒で助け舟を出してくれる。
それを察せられる私は、本当は凄いんじゃない?と気づいた。
好きな人のことだからなんでもわかる、じゃない。わからないことの方が多い。
じゃあなんで秀吉さんの行動が分かったかといえば、秀吉さんの目が『助けてやる』って言ってるからだ。
城下の女の子達は持っていなくて私が持っていたものは信頼という名の絆だ。
(大勢の女の子達の中から特別な1人になれる…?)
乾物屋の主人から見て私と秀吉さんが特別に見えて、秀吉さんが妹分だと言わなかった。
このチャンスを逃しちゃいけない気がした。
「今みたいに…いられたらって思います」
『今まで』の兄妹みたいな関係じゃなく、『今みたいに』誰が見ても恋人同士に見られるような二人でいたい。
大勢の前で言えたことはそれだけだった。
直接的な言葉はなかったけど周囲はワッと盛り上がった。
乾物屋「舞様も、もどかしいこと言うねえ!
秀吉の旦那、女にここまで言わせちゃっていいんですかい?」
秀吉「ちょ、っと待て。待ってくれ。
舞、お前、急にどうした!?」
「急にどうしたって正直に言っただけだよ。
秀吉さんが嫌なら………今までのままでいい」
悪いものを食ったのか!?ぐらいの勢いで言われて傷ついた。
やっぱり変な期待なんか持たないで妹枠におさまっていれば良かったと後悔した時、秀吉さんは両手で一瞬顔を覆い、ばっと手をどけた時には何か決心したようなキリっとした顔つきになっていた。
秀吉「舞、四半刻待った分を無駄にするが許してくれ」
「えっ!?」
手を引っぱられて初詣の列から離脱した。後ろから囃したてる声が聞こえていたけど、それもすぐに遠ざかり聞こえなくなった。
今日は元日とあって道行く人は誰も居ない。店を開けているところもないから、ただひたすら雪を踏む二人分の足音だけが響いている。