第36章 姫の年越しシリーズ(2024年)・12月31日
光秀は余裕のある顔で酒を一息に飲み干した。
しかしまだまだ飲めるといった余裕がありながら、何故か盃を伏せて置いてしまった。
『今夜はこれで終わり』の合図に舞が『え~?』という顔をしている。
光秀「俺が寝たらお前は一人酒を寂しいと感じるはずだ。そんな思いをさせるほど俺も野暮じゃない。
さあ、立て。部屋まで送っていってやる」
「もう少し飲みたいのに。なんでいきなり気づかいできる男になっちゃったんですか?」
光秀「お前の世話を焼く男がそこでグーグー寝てるから代理だ。
明日も内輪の宴があるだろう。続きはまた明日だ。
立たないなら担がせてもらうぞ」
もう舞の瞼は半分以上落ちていたが、しっかり自己主張する気力は残っていたらしく『担がれるのヤダ。おんぶか抱っこ』と光秀に向かって両腕を伸ばした。
酔っ払いの舞は清々しく図々しい。
要望通り抱き上げた途端に舞の身体から力が抜け、見ると緩んだ顔でスカースカーと気持ち良さそうな寝息を立てている。
光秀「この勘違い馬鹿娘。お前は愛しく逞しい。
皆(みな)がお前を欲しがって、なかなかに楽しい1年だったぞ」
眠っている舞は既に夢の中に深くはいりこみ、口をもぐもぐ動かしている。
緩みきった顔でとても可愛いとは言い難いが、魔法がかかったように可愛く見えるのは光秀の中に密かな気持ちがあるからか。
「うーん、ナスが食べたいよぉ…」
光秀「ナスか。もう縁起の良い夢を見てるんだな。
目を覚ました時に覚えてるといいが?」
光秀がクスっと笑って広間を後にする。
こうして大みそかの宴は静かに終わったのであった。
(1月1日につづく)