第35章 姫の年越しシリーズ(2024年)・12月30日
信長「舞、なぜ俺の大福に顔を描かんのだ」
常々信長の不興を買わないように気をつけてきた舞は突然むけられた不満にピシリと固まった。
こちらを睨む目は不満が満ちて緋色が増し、うっすらとこめかみに青筋を浮かんでいる様はどう見ても不機嫌。その口が今にも『殺せ』と動くのではないかと舞はめいっぱい混乱した。
「信長様に可愛い大福は似合わな…え、何、秀吉さん?」
マッハで駆け寄ってきた秀吉に新品の楊枝を持たされて『いいから行って描いて差し上げるんだ!』と送り出される。
『どこから楊枝を出したの!?』とつっこむ暇もなく信長の御前に出され、舞の顔が引き攣った。
光秀はニヤリと艶美(えんび)に笑っただけで静観しており、舞は汗ばんだ手で楊枝を持ち直した。
「の、信長様には描いているところをお見せしようと思っていたんです!
どんな顔がよろしいですか?蘭丸君と一緒でもいいですし、えーと、えーと…目がうるうるして泣きそうなやつとか、怒ってる顔とか」
信長「貴様に任せる」
「う、一番難しい注文きたっ」
信長「何か言ったか?」
「っ、いいえ!」
光秀「…ふっ」
舞の嘆きは光秀にしっかり聞こえたらしいが、それを信長に教えなかったのは光秀の情けだったのか気まぐれか。
とにかく舞を見守る琥珀色はどこまでも楽しそうだ。
「では信長様の大福には、くまたんの絵を描かせていただきます!」
慶次「おっ、いいじゃねえか。くまたんってあれだろ?お屋形様が天守に飾ってるやつ!」
蘭丸「どんなふうになるか楽しみ☆」
三成「舞様は芸達者だったのですね。頑張ってくださいね、舞様」
家康「どう見ても無理やりでしょ。
秀吉さん、やめさせたら?」
秀吉「いい仕事して信長様に喜んでもらうんだぞ」
家康「…」
「応援はいいから誰か助けてよ……」
安土城の庭は和やかに賑わい、その中心では冷や汗をかきながら大福に絵を描く舞が居たのだった。
(12月31日につづく)