第35章 姫の年越しシリーズ(2024年)・12月30日
家康「12月の寒空で、なんで汗かいてんの。
湯飲みは空だし、顔赤いし、正直に辛いって言えばいいだろ」
三成「いえ、本当に美味しかったですよ。
舞様、来年もまた作ってくださると嬉しいです」
「う、うん。来年は甘いやつ作るね。
ごめんね、三成君。食べてくれてありがとう」
飛び上がるほど辛かっただろうにまた作ってほしいと言われ、舞は胸の内側を羽毛で撫でられたような感じがした。
恥じらうように笑う舞に、家康の眉間に不快な皺が寄った。
政宗「おいおい、来年のことを言うと鬼が笑うぜ?
まあ三成が辛味を感じたのは進歩だ。今度飯を作ってやる時は刺激的な味にしてやるからな」
「明日は宴だし今度って来年になるんじゃない?
政宗だって鬼に笑われちゃうよ」
アハハと笑った舞の視線の先で秀吉が慶次を叱っている。熱が入り、しばらく説教は終わらなそうだ。
信長「……」
一番先に大福を振る舞われて当然の人物に皿が回ってこない。
餅屋がひれ伏して献上してきた大福を断り、わざわざ舞の大福を待っているのだが秀吉は気づかずに説教している。
信長が口寂しさに金平糖を口に放り込んでも、いつもなら飛んできて忠言するはずの男は慶次に向かってエンドレスリピートの説教をしている。
緋色の視線に気が付いて光秀が口角を吊り上げた。
光秀「1番が信長様、2番が秀吉ときたら俺は3番目あたりかと待っているが、まだ来ないようですね」
信長「猿め。先に大福を置いてから行けば良いものを……」
光秀「とばっちりが食うのは面倒なので、もう少し待ちましょうか」
もとより食に興味のない男は、大福が出来立てだろうが冷めていようがどちらでもいい。ゆるりと構える左腕に信長はもう一粒金平糖を口に投げ入れた。
主人の心情を察した男がダメダメと大げさに肩をすくめた。