第34章 呪いの器(三成君)
「家康のこと好きだよ。でも愛しているという言葉はそぐわないの。
私が心から愛しているのは三成君だけだよ」
三成「え…?」
「ふふ、あの時の三成君の言葉だよ、覚えてる?
あの時、家康にヤキモチ焼いた私の気持ち、ちょっとはわかった?」
三成「ええ。やっとわかりました。
家康様のことを好きで私のことを愛してると言った舞様の気持ちも、よくわかります」
お互いの立場になって同じセリフを言ってわかり合って、私達はおかしくなって吹き出した。
「さあ、部屋に行こう。
久しぶりにゆっくりお話ししたいし」
私が引っ張るままに三成君は少し後ろをついてくる。
寝ぐせが風にフワフワ揺れて可愛いすぎると胸いっぱいになったところで『あ!』と立ち止まった。
三成君が私の背中にぶつかってしまい慌てている。
「三成君とゆっくりお話しする前に信長様のところに報告にいかなきゃ!」
呪いのせいで大分心配と手間をかけさせてしまったから、元気な顔で帰ってきました!くらい報告しないと薄情というものだ。
天主の方向にUターンしようとした私を三成君が流れるように引き寄せた。
廊下の真ん中で三成君の腕にすっぽりと包まれて動けない。
三成「お待ちください。
信長様のところには明日伺えば大丈夫です」
熱っぽい囁きが耳をくすぐる。
前は人目に触れそうな場所で抱きしめるとか無かったのにと顔がボボッと熱を持った。
「み、三成君、顔を見せるだけだからすぐ終わるよ?
信長様と秀吉さんは三成君の上司だし、こういうことはちゃんとしておかないと怒られちゃうよ」
諭した相手は頑固に腕を緩めてくれなかった。
三成「さっき家康様は行くところがある、早く荷ほどきをしろと言ってくださったでしょう。
あれは信長様への報告は自分がするから部屋でゆっくりして、という意味ですよ」
「えぇっ!そうなの!?
都合のいい解釈じゃなくて?」
三成「私が家康様のことで間違えるとでも?」
さっきまで子犬みたいに従順だった人が私の前を歩き始めた。
間違った解釈をして家康にメチャクチャ嫌がられているくせに、三成君の爽やかな笑顔に何も言えなかった。
(でも三成君、なんだか以前よりも大きく見えるな…)
前を歩く背中が、頼もしく見えた。