第34章 呪いの器(三成君)
ここ1年見慣れた大学院生の格好よりも忍び服が板についている。
3Lサイズの梅干しを5㎏も背負ってるのは謙信様へのご機嫌取りだそうだ。
クリスマスが近いからサンタの帽子をかぶろうか迷っていたけど、家康に『謙信がそんなので機嫌直すわけないでしょ』と言われて何もかぶっていない。
佐助「俺も急いで越後に帰らなきゃいけないからお暇するよ。
三成さん、後でワームホールについて意見交換をしましょう」
三成「ええ。私も佐助殿の見解を聞いてみたいです。
舞様を助けていただいてありがとうございました。
お気をつけて」
「佐助君、ありがとう。
謙信様に斬られないようにね。また安土に来たらお茶しよう!」
佐助「ああ、わかった。久しぶりにあそこのお茶屋のお団子が食べたい」
「ふふ、そうだね~」
ばいばいと佐助君が手を振って、しっかりと忍術を披露して煙のように消えてしまった。
気持ちも落ち着いたし、佐助君と家康もそれぞれ行ってしまった。
三成君のお部屋に行ってゆっくり再会を喜ぼう。
「ここを片付けてお部屋に行こう。
ん?難しい顔をしてどうしたの?」
三成「いえ、舞様と家康様、佐助殿の会話の内容が気になって…」
「気にしないで、たいした内容じゃないよ」
三成「主語や固有名詞がなくても会話ができるためには一定の時間と親交の深さが必要です。
そのためには…」
頭がいい人の悩み方はちょっと面倒だ。
しかたないので三成君は放っておいて書庫に散らばっていた書付けを集めてクルクル巻いて紙紐でまとめた。
誰かに見られたら大変だからすぐ処分しよう。
「もうこれ要らないよね。早く捨てよう」
三成君に丸めた書付けをポンと渡すと、我に返った三成君が上手にキャッチした。
三成「今は必要なくなりましたが…家康様が私から舞様を奪うようなら必要になるかもしれません。
そのくらい親しげに見えましたから」
「なーに言ってるの?三成君と家康だって同じくらい『親しげ』でしょ。
主語も固有名詞も使わずにお話できるくらいなんだから!」
三成「ですが……」
ワームホールに挑んだ人が、なんで私と家康のことで悩むのか不思議だ。
ふとミノムシの朝を思い出して、ああそうかと笑いたくなった。