第5章 姫がいなくなった(元就さん)
元就「この世界はお前の世では『げーむ』と言われている遊びの世界だっていうのか?」
「………はい。私は何故かゲームの世界に入り込んでしまって、信長様が襲われた本能寺の火事場に居合わせたんです」
元就「それで?ゲームを動かしている、からくりになんらかの問題が起きて、お前は現実に引き戻されてしまったと?」
理解しがたい話を元就は消化しきれずに居た。
ホラをふくにしてもあまりにも突拍子もない話だ。
「はい。その問題が解消されたとお知らせが来た瞬間、私はまたこの世界に取り込まれ、元就さんの部屋に来ていたんです」
元就「……………」
この世に生まれ、泥水をすするような人生を歩んできた元就にとって『この世界は女性向けのゲームの世界です』と言われても信じられない。
自分が生身の人間であることも、生きているこの世がハリボテのつくりものではないことも知っている。
元就「お前の世界の人間が作り出した創造の世界……?ここが?」
「はい……。でも私もわからないんです。この世界に居ればいるほど、作り物ではないと感じるんです。
城下に出れば人々の暮らしがあって、戦にでれば命の駆け引きが生々しく展開して……ですが今回の障害で私に異変が現れたことでやっぱりここはゲームの世界だと確信したんです」
何故か舞が涙を流している。
「このまま……この世界で生きたいと思っていたんです。
それなのにこんなことが起きて………また突然引き戻されたらどうしようって……」
元就「元の世界に戻りたいって思うのがまともな人間じゃねえか?
なんでつくりものの世界に居たいなんて考えるんだよ」
戻ってきたところで人質として利用されるだけだ。
舞ははっとして頬を赤く染め、すぐに誰かを想っているのだとわかった。
元就の胸を、またしても息苦しい感情が支配した。
元就「はっ、ゲームの攻略相手に懸想(けそう)するなんざ、酔狂な女だな。相手は信長か?寵姫だって噂があったしな?」
怒りで手が震える。手を伸ばせば届くところに拳銃がある。
この際、話が本当かどうかなど関係ない。
目の前の女が誰かを好いている。
………それだけで世界の終りのような気がした。