第34章 呪いの器(三成君)
三成「あなたが呪いの器を作らなければ、見知らぬ誰かのために死ぬこともなかったのですよ」
椿「……」
椿は眉を寄せただけだった。
慣れない牢屋生活ですっかり骨が浮いた手が簪に伸びる。
椿「介錯人は?」
当然居るものとして椿は牢の外に人影を探し、気配がないとわかると怪訝な顔をした。
三成「信長様の『楽に死なせるな』という命により介錯人はおりません。
楽に死にたければご自分で間違うことなく急所をお突きになってください。私が見届け役を拝命しました」
椿「なんと惨い仕打ち…」
怒りに震える椿に三成はもう何も言わなかった。
全ては椿の罪だ。
椿「どこぞの馬の骨が姫となり手厚く守られるとは、由々しき世になった」
三成「…それは舞様のことを言っているのですか」
椿「他に誰が居る?ある日突然現れて信長様に気に入られて姫となったと誰もが知ること。
だからあなたも舞姫から千代姫に乗り換えたのでしょう?」
三成は奥歯をぐっと噛みしめて言葉を飲み込み、無言を無視だと決めこんで椿は鼻で笑って蔑んだ。
何度か躊躇いののち簪が喉に突きたてられた。
椿「うっ…」
衰弱した女の手で突き立てられた簪は半端に首に食い込んでいる。
簪に血を吸われて首から血が流れていないのが何とも異様で、三成は苦しむ椿を見届けていた。
ゼーゼーと不規則な呼吸音は、傷つけられた命の喘ぎだ。
三成「その様子では丸一日苦しむことになるでしょう。
あなたの命が消えるまで私とお話しでもいたしましょうか」
椿が嫌だと必死の形相で介錯を訴えてくる。
三成の表情は冷たく椿が死ぬのを待っているようにも見え、判断が難しい。