第34章 呪いの器(三成君)
三成「この世にある命は平等で尊いものです。
あなたが奪った命はたとえ神でも取り戻せない、この世で唯一の大事な命だったのですよ。奪ったからには償いが必要です。
椿様は私だけとおっしゃいましたが、椿様の場合は今すぐ償ってもらわなければいけないだけで、人をたくさん殺した私達もいずれは罪を償う時が来るでしょう」
椿は『今すぐ償ってもらう』、その訳に気が付いてフンと鼻を鳴らした。
椿「あぁ、なるほど。そういうこと」
呪いの器を頻繁に身につけていると呪いが人体に移り、死に至ると当然椿は知っている。
そしてその解決条件として椿の死が含まれていることもしっかりと記憶していたのだ。
椿はやつれた顔を蒼白にして薄ら笑いをした。
椿「舞姫に紫斑が出たのね?」
三成「ええ。彼女には呪いが届かない場所に移っていただきましたが、完全に呪縛を解くには椿様の命が必要です」
椿「ふふ、呪いの届かない場所がこの世にあるわけがない。
動物達は野ざらしにさらされて、さぞ恨みが深かろう。今すぐ私が死んだとしても手遅れよ」
三成「手遅れではありません。舞様は特別な方法で呪いが届かない場所に行っていただきました。
あの方が帰ってくる前に、この簪にかけられた呪いを消滅させなくてはいけません」
椿「特別な方法?」
三成「はい。この世で舞様とご友人にしかできない秘法です。
おかげであの方は苦しむことなくお過ごしでしょう」
呪いから解放されているはずだが確証はない。
舞が旅立ってからというもの、無事でいてほしいと三成は願い続けていた。
椿「秘法を使い、私の命を犠牲にしてまで姫を助けるとは、信長様のお気に入りというのは本当ね」
三成「犠牲ではなく償いです。
あなたが犯した罪で舞様の命が消えるところだったのですから」
椿「会ったこともない人のために私は死ななくてはいけないのね」
会ったこともない人間に殺されかけた舞はどうなのかというところだが、椿はそこまで頭が回っていないようだ。
極限の場において椿の得手勝手な人間性が露わになり、三成は怒りが滲むのを避けるために冷静を努め、そんな椿を諭した。