第34章 呪いの器(三成君)
椿「ぅ……ぁ……」
必死に訴える椿に三成が歩み寄り、目線を近づけるためにしゃがみ込んだ。
介錯するつもりがないのか刀は抜かず、椿の瞳に絶望が宿った。
三成「その苦しみはあなたの罪で償いですと言いましたが、あなたが言う通り、私の愛しい人を救うための犠牲でもあります」
まだ聴力が正常な椿は『愛しい人』と聞いて混乱している。
三成はそんな椿を見つめ、遠いところに行ってしまった舞を思い切なげに笑った。
三成「間違った噂を未だに信じていたのですね。
私が愛する人は舞様です。千代姫に心を移したことは1度もありません」
椿「ぇ………ぁ……!」
三成の右手がゆっくりと椿に伸びる。
三成「舞様を貶めたのですから長く苦しんでいただきたいのですが…。
これからもずっと舞様を愛し、共に歩いていくために、一刻でも早くあなたに死んでもらわなくてはいけません」
ふうと息を吐いたのが合図になり三成の声色に怒りが混ざる。
三成「椿様の行いが発端で私は舞様を失いかけ、ずっと隣で守って差し上げたかったのに遠くにやるしかありませんでした。
あなたが憎いです。同時に私の力の至らなさが……憎い」
愛憎が入り乱れたのちに三成の瞳から感情が抜け落ちた。
椿「ま………っ…!」
まさかの人物に憎しみをぶつけられ椿は無意識に避けようとした。
三成「あなたを殺した罪はあの世で償います。
ひとおもいに旅立ってください」
三成が骨に突き当たっていた簪の角度を変えた。
トンボ玉と紫真珠の飾りが手のひらに食い込むのもかまわず、力が加えられる。
ゴリゴリ……ズブ
簪が骨に擦れる気味の悪い音がして、骨を過ぎたところで深々と突き刺さった
椿「っ……!」
絶命した椿の首の後ろに、貫通した簪の先端が黒く光る。
それを見る三成の表情は悲しみに満ちていた。
三成「舞様………これで1つ終わりました。
あと2つの条件が適うまで、生まれ育った世で健やかにお過ごしください」
呪いの器はひと雫の血までも吸い尽くし、紫真珠は一層美しく輝いていた。