第34章 呪いの器(三成君)
椿「いや……いや……私じゃないっ!違う、全部最初から間違っていた!
私をこんなところに嫁がせるからっ……!ここには私の場所なんて最初からなかったっ!!」
何を言い出すのかと大半が眉をひそめた時、千代姫が立ち上がり椿の前に立った。
千代姫「そんなことありませんっ!子供心にも覚えております。
父上も母上も突然嫁がれることになったあなたを気づかっておられましたし、特に母上は不慣れな城であなたが不自由なく暮らせるよういつも気にかけていたのです。
お義母様と一緒に父上を支えていきたいとおっしゃったこと、私は心の底で信じておりました。
それにお義母様は夕夏のお母様でしょうに、何故居場所がないとおっしゃるのですか。
何も見ないふりをして捨てたのはお義母様の怠慢にすぎませんっ」
だらだらと言い訳する椿を千代姫の正論が圧倒した。
土壇場で明暗分かれた二人を、大勢の人間が目撃していた。
椿「私が怠慢だったと…?」
椿の目は千代姫から大名に移った。側室にあがってから十数年。
わかりやすい愛情をくれる男ではなかったが最後まで椿を信じてかばっていた。
突き放すような冷たい視線を夫に向けられ、椿は俯いた。
千代姫の言葉が胸に鋭く刺さり、夕夏の方を見られない。
居場所がない、夫の心もない、何もないと思っていた椿は、手に中にあったものを自ら手放していた。
憎い相手を殺して椿が得たものは、思い描いていた自由と幸福ではなく罪悪と空虚だった。
光秀「急ぎ連行しろ」
家臣「はっ」
椿が連行されていく。このまま護送用の駕籠にのせられて安土に向かう手筈になっていた。
椿を信じ、供をしようという人間は1人も居なかった。