第34章 呪いの器(三成君)
三成「私と光秀様は信長様にこの簪について調べるよう命じられて参りました。
明らかな虚言を口にされたので、信長様への無礼として直ちに椿様を捕縛いたします」
椿「っ、ちが、私じゃ…」
三成「椿様がやったことではないとおっしゃるのでしたら、証拠をそろえていただきましょう。こちらには椿様がやったという証拠を複数揃えてあります。
今は虚偽の罪で安土に連行しますが、追ってさくら姫の殺害の罪、舞様に危害を加えた罪が加わるでしょう。
……椿様に縄をかけてください」
三成の言葉が終わらないうちに椿は後ろ手に縛られ、強引に立たされた。
よろめく椿に光秀がゆるりと歩み寄り、腰をかがめて視線を合わせた。
光秀「お前には信長様の気に入りに危害を加えた疑いがかかっている。
証言も証拠も揃って罪は確定しているようなものだが、裏付けるためにも俺が直々に尋問してやろう」
椿から血の気がひき、さしている紅の色だけが浮き上がる。
その様は真っ白な雪を積もらせた寒椿の花のようだった。
椿「この私が尋問っ!?」
光秀「舞に手をかけておいて尋問にかけられるだけありがたく思え。
この場に信長様が居たら即刻首を刎ねただろう」
椿「違うっ!あの簪は舞姫にじゃなく千代姫に…!っ!」
椿が狼狽えて口走ったのは言い訳ではなく自白だった。
罪を認めたのも気づかず、椿はアワアワと意味のない言葉を吐いている。
目論見通りと光秀は薄く笑い、大名と千代姫の目から最後の情が消え去った。
光秀「ふっ、また1つ証言が増えたな。
さて大名よ、悪いが奥方は安土に連行する。信長様の采配しだいでは…わかっているな?」
大名「御意にございます」
簡潔なやり取りで椿の命は大名から信長の手に渡った。
安土に行ってわざわざ信長の沙汰を聞かずとも先は知れる。