第34章 呪いの器(三成君)
大名「習慣にのっとり身につけていた物もまとめて火葬いたしました。
今にして思えば根付を処分するためだったのではないかと、そう思えてなりません」
椿「何をおっしゃいます!
私は北の御方のお心を想って提案しただけで…っ」
三成「椿様。先程から少々お言葉が多いかと。
私どもの話を妨げぬようお気遣いください。三度目の注意です」
椿「っ!」
口調は柔らかい。だが『出しゃばるな』そう冷たく釘をさされて、椿は屈辱で顔を真っ赤にしてうつむいた。
広間の空気は息苦しいくらい重たい。
三成「こちらの簪を千代姫の荷物に紛れ込ませたのも椿様ですか?」
皆の視線を浴びながら重い沈黙の中、証言するのはかなり負担になる。
そこを狙っているのかどうか三成は容赦がない。
椿「…いいえ、知りません」
やっとのことで答えた椿だったが瀬戸際に立たされることになった。
「それは虚言ですね。
正確に言えばあなたが直接紛れ込ませたのではなく、こちらにいらっしゃる女中に命じてやらせたのです。
あなたの女中は用途の怪しい大金を何度も運ぶよう命じられ、以前から不審に思っていたそうです。
この簪と根付の真珠が同じだと気づき、呪いの品とは気づかなかったものの気味が悪いと感じ、『知らないうちに自分が良からぬことに加担させられているのでは?』そう考えたそうです。
椿様から簪を預かった直後、隣室に控えていた他の女中に『今しがた椿様に預けられたのはこの簪だ』と見せて、いざとなった時に濡れ衣を着せられないようにしたんです」
椿「そんな…私は……私は…っ」
何も知らないと言えなくなった椿は言葉に迷うばかりで、憐れになるほど動揺していた。
その隣で大名は大きな体躯をわななかせている。