第34章 呪いの器(三成君)
女中「椿様は『今後はこの地のために共に盛り立てていきましょう』とおっしゃいまして、紫真珠のついた根付を北の御方に贈ったのを私は見ておりました。
北の御方は毎日、毎日……うぅ……身に着けておられましたっ!」
血を吐く勢いで証言した女中は、椿をぎっと睨みつけた。
身分や礼儀も忘れて怒りをぶつけるほど、女中はさくら姫に忠義を誓っていたのだ。主人を失くして空虚だった胸に憎悪が満ちる。
女中「呪詛などと…北の御方があまりにも不憫ではないですか。
いったい北の御方が何をしたとおっしゃるのですかっ!!」
千代姫「これ…気を鎮めなさい」
たしなめながらも千代姫も同じ気持ちなのか唇を噛んで涙を流している。
義母を攻め立てても亡くなった実母は戻ってこない。下手人として罰が下されることを望み、千代姫は涙ながらに三成に視線を送った。
舞が『参謀の三成君は凄いんだよ』と、絶大な信頼を寄せていた男性だ。
(三成様はお義母様を掴まえるためにこの場を設けたのだから、必ず裁いてくださるわ)
現に言い逃れできないように椿の周りを証拠で固めてきている。
(舞の三成に対しての信頼は間違いなかった。
あの方が信じた人を私も信じるわ)
千代姫は女中にこの場を最後まで見届けようと励まし、なんとか落ち着かせた。
三成「ひとつ目の呪いの品は根付だったと裏がとれておりますので証言と合いましたね。
では北の方が根付を身に着けていたのをあなたも覚えがありますか?」
厳しい顔つきで三成が大名に問う。
女中の証言だけでは椿に強引にひっくり返されるのを考慮し、この城の中で正室の椿が唯一口答えできない人物に確認したのだ。
大名「はっ。珍しい真珠でしたので覚えております。
室(しつ)も大層気に入って、時折嬉しそうに眺めておりました。
突然の不幸に気を落としていたところ、椿は『恐ろしい死に顔ならば土葬ではなく火葬にしてあげましょう』と提案してきたので、その通りだと思い承諾しました」
大名は言葉を切って片手で目を押さえた。
目頭をぎゅっと押さえたのは恐らく涙を堪えるためだ。