第34章 呪いの器(三成君)
千代姫「私とてそんなことをしておりません!」
椿「やっていないというなら、やっていない証拠をお見せなさい」
千代姫「そんな…っ、急にそのように言われましても無理でございますっ」
椿「ならば証拠が集まるまで大人しく縄についていればいい!」
椿は場の主導権を握ろうとしたが、それは涼しい顔をした光秀が許さなかった。
裏切りの噂の絶えない男だが曲がりなりにも信長の左腕。
光秀を知る者なら曲がりなりにもどころか正真正銘の左腕だ。
その光秀が口を開けば、静かだが迫力のある艶やかな声でその場は一様に支配される。
光秀「お二方、そうやって言い争うのは、こちらの説明を全部聞いてからにしていただきたい。
先程この三成が言ったのをもうお忘れか?」
大名「二人とも光秀様と石田様の話を遮るとはみっともない。
静かにせいっ!」
千代姫「はい…、申し訳ありません」
椿「………」
2人は視線だけを激しくぶつけあっていたが、無駄なことと察した千代姫から視線はふいと外された。
光秀「さて続けるとしましょう。
椿様の手形の指摘ですが、本の埃では大した証拠にはなりませんでしたが、木桶の手形はハッキリとしていてそこの男のものと一致しました。
この男は呪いの器を作りあげ、報酬は椿様の女中が運んできたと言っております。
男の部屋には一生働いても得られない大金が保管してあり、複数の人間が確認しております」
椿「っ」
光秀とどういう取引がなされたのか定かではないが、男は取り調べが始まって間もなく自白し、今も椿を見てざまあみろと薄笑いを浮かべている。
椿が信用をおいていた古参の女中も同様だ。
長年仕えた主人を裏切ったにしては恨みのこもった目で椿を見ている。
大名「なんと……何かの間違いでは」
椿は気を保つだけでいっぱいといった感じで座っており、大名は椿をかばい、逃げ道を探ろうとしている。