第34章 呪いの器(三成君)
この城に召され呪詛の本を椿に売ったと商人が証言し、古参の女中は間違いないと証言を裏付けた。
三成は呪いの器が作られた場所に、男が居た痕跡があったと説明した。
三成「私が運ばせた本にはわざと埃をつけておいたので手形が残りました。
本の手形と現場の木桶に残されていた血の手形を比較し、また本のぞんざいな扱い方などから疑いをかけたのはそこに座っている男でした。
僭越ながら秘密裏に取り調べさせていただきましたが、椿様に命じられて呪いの器を作ったと証言をしています」
椿「わ、私は何も知りません。
本や木桶の手形と言いますが、そんなにハッキリと残るものですか?
この城に仕えている男なので顔は知っていますが、口をきいたこともありません。誰かが私を陥れようとしているのではないですか?
そこの千代姫あたりが怪しいでしょうに。とぼけたふりをしていないで正直に話したらどうなの、千代姫!」
苦しい状況でも椿は気丈に言い返し、揚げ句、千代姫にその罪をなすりつけようとした。
椿は義理の関係が最初から忌々しかったのだ。正妻の娘と、側室である自分が仲良くする理由がどこにあるのだと。
政略的な意味合いで大名の側室になることが決まり、嫌々ここに来たのだ。
ところが夫の隣に堂々と座って微笑む千代姫の母と、愛されて育ったとわかる聡明な千代姫。
側室など本来ならば要らなかったと、そう見せつけられた気分だった。
その日から椿の心には憎しみが渦巻いた。誰に憎しみを覚えたのかさえ見失い、とにかく3人のうちの誰かが幸せそうにしていると腹が立って仕方がなかった。
(千代姫など忌々しいだけの存在よ。
この土壇場で罪をなすりつけても何か失う関係でもないわ)
千代姫を見る目は憎しみで澱み、見返す千代姫の目には凛とした光が宿っていた。
対照的な視線が宙でバチバチとぶつかりあい火花が散る。