第34章 呪いの器(三成君)
椿が席についたのを確認し、三成は今回の事件のあらましを説明し始めた。
まずは千代姫が舞に贈った簪が呪いの品であることが判明し、体調を崩した原因になったと切り出すと、千代姫は動揺を露わにした。
大名「千代よ、舞姫に簪を贈ったというのは真のことか」
千代姫「はい。ですが天に誓います。簪は知らぬ間に荷物に紛れ込んでいたもので、私は呪いの品だと存知ませんでした。
とても綺麗な品でしたので私よりも舞様に似合うと思い、差し上げたのです。
まさかあれが呪われた品だったとは、どうお詫びしたら良いでしょう」
大名「安土滞在中にあれほど良くしてくださった舞姫に不吉な品を送っておいて知らないでは済まされんっ!」
千代姫「誠心誠意お詫びして処罰をお受けいたします」
大名の怒りは激しく、腹の底から出した叱責の声で庭木に止まっていた鳥が慌てて飛び立つほどだった。
千代姫はいさぎよく畳に手をついて頭を下げているが、大名の怒りはまだ続いている。
三成「お二人とも最後まで聞いていただけますか?
千代姫も頭をあげてください」
千代姫「はい…」
三成「では簪がどう作られたか、そちらの説明に入ります」
眼鏡をかけた三成が手元の紙に視線を落とすのを千代姫はしっかりと見据えた。
恋仲に不吉な品を贈った下手人だと責めてもいいところを、三成はそうしない。
しかしいつもにこやかにしている男が、今日に限っては厳しい顔をしているのはやはり舞が絡んでいるからだ。
最後まで聞いて欲しいと言った三成は、千代姫に情けをかけたわけでもなく咎めてもいなかった。
千代姫「……」
(三成様は公平にこの事件を裁こうとなさっているのね。
最後まで聞いてみましょう)
千代姫の隣で大名も深刻な顔で拳を作っていたが、話が進むにつれて疑惑は椿へと向き、2人は驚きで言葉を失うことになる。