第34章 呪いの器(三成君)
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安土のはずれに凄まじい雷雨が降り注いだ次の日、光秀は武装した手勢を20人ほど連れて大名の城に入城した。
物々しい雰囲気に大名は驚き、椿は一緒に驚いたふりをしながら『今度こそ千代姫を捕らえに来たか』と胸を弾ませていた。
光秀は指定の人間を広間に集めるよう命じ、椿は千代姫を裁く場だと揚々と足を運んで青ざめた。
広間には大名と千代姫、娘の夕夏姫の他、呪詛の本を買いあげた商人、呪いの器を作らせた家来、前妻についていた女中。
そして椿の嫁入りについてきた古参の女中までもが揃っていたのだ。
千代姫を裁く場にしては余計な顔が多すぎる。
襖を開いたところで足を止めた椿に、何も知らない大名が残酷に手招いた。
大名「明智様と石田様から大切な話があるそうだ。
早く座りなさい」
椿「殿、申し訳ありませんが少々気分が優れず…」
視線が集まる中、退出を口にした椿の背後で白い影がゆらりと動いた。
光秀「これはこれは、あなたが椿様ですか。
今から余興のお披露目をいたしますので是非ご覧いただきたい」
椿は突然現れた美丈夫に視線を奪われたが、抜け目のない琥珀の視線と背中を押す有無を言わさぬ手に、本能的に危険を感じ取った。
椿「っ、いえっ、私は…!」
光秀「椿様の出席は信長様のご命令です。
気分が悪いとおっしゃるのなら臥せっていてもかまいませんので出席願います。
布団を用意させましょうか?」
椿「っ」
すっと細められた視線に温度はない。椿は氷でも押し付けられた面持ちで口を閉じた。
好き勝手をする椿だが、それは身内の人間に限ってのこと。位の高い武人にきつく言われてしまえば我儘は鳴りを潜めた。