第34章 呪いの器(三成君)
家康「三成は『舞様を未来に行かせる時、後世に名が残っている人間が一緒に行けば、その人間を元の時代、つまりこの戦国時代に戻そうとワームホールは開くはず』と仮定したんだ。
この時代で活躍するはずの人間が居なくなれば歴史が崩れる。ワームホールに歴史修正のはたらきがあるなら開く確率が上がるだろうって。
安土の武将の誰を連れていっても同等の影響がありそうだけど、体調のこともあるし俺がついて行くのが一番良さそうだって言っていた。
この仮定をあんたはどう思う?」
家康は決して頭が固いほうではない。
けれど三成のように常識が通用しない領域を予測して仮定するまでに至らなかった。
三成から話を聞いた時も、良いとも悪いとも言えず、この奇妙な男がどういう答えを出すのかわずかな好奇心を持っていた。
佐助「……」
佐助は虚空を眺めてしばらく考えたあと、確信を深めるように何度もうなずいた。
佐助「俺と舞さんがタイムスリップした時点で時空がねじれて本来の歴史とはズレが生じました。
未だにそのズレは修正されていませんので、ワームホールに歴史修正の力があるか不明です」
不確かだと前置きする佐助の表情は、しかし明るかった。
佐助「ですがワームホールを開く確率を上げるために家康公を連れていく発想はある意味禁じ手とも言えますが、賭けてみてもいいと思います。
詳しく言えませんが家康公の存在の有無は歴史に大穴があくほど偉大です。
俺と舞さんが時空を越えるのとは桁が違う」
家康「へえ……、偉大なことなんて一つもしてないけどね」
猛者ぞろいの武将の中でもがいている自覚があるだけに家康は気後れをおこしている。
佐助「家康公が偉大になるのはこれからのことですからね。
しかしこの時代にこんな柔軟な考えができる人が居たんだな。三成さんには実際会ったことはないけど今度是非会ってみたいな」
家康「うざったいから絶対やめたほうがいい」
佐助がキラキラと目を輝かせる表情は、三成が家康を見る時の表情と瓜二つで、家康は関わりたくないというように顔をしかめた。