第34章 呪いの器(三成君)
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舞の私室の天井がカタと音をたて、一枚板が外れたそこから黒い影が落ちてきた。
天井からの来客があるのを待っていた家康は黙して迎え、その表情はここ数日の心労が重なって暗く見えている。
黒い影……佐助は、初めて対面した家康に口布を下ろして黙礼し、すぐに舞へと視線を落とした。
佐助「舞さん、俺だ。
迎えに来たよ」
声をかけても舞は深く眠っている。
佐助は舞の鼻先に手を当てて呼吸を確かめ、辛うじて感じる細い息に眉をひそめた。
家康「あんたが舞の同郷っていう佐助?
軒猿に連絡をとってあんたが来た時点で間違いないんだろうけど、謙信の忍びで間違いない?」
佐助「その通りです。俺は謙信様のところで忍びをやっている猿飛佐助といいます。
舞さんとは唯一の現代人仲間で、時々、いや結構な頻度でお茶をする友達です」
家康「ふーん…」
家康が謙信の情報を集めようとすると、よく猿飛佐助の名があがっていた。
軍神の傍に居るからには物騒な男だろうと思っていたが、実際はつかみどころのない雰囲気の男だ。
家康は疑い深く佐助を上から下まで眺めてから本題に入った。
家康「この娘には苦痛を減らすために痛み止めを飲んでもらっている。
睡眠薬が全然効かないから舞には悪いけど打撃を与えて気絶させた。
舞がこうなった事情はわかってるよね。
三成があんたに文を出したって聞いてるけど」
佐助が頷いたのを確認して家康は続けた。
家康「三成が安土に居ない間、舞に異常があったら佐助に連絡をとるように言われていたんだ。
……この娘を未来に連れていく準備はできてる?」
佐助「はい。ワームホールの出現予定日に変化はありません。
すぐここを発てば余裕で間に合います」
期待したとおりの返事に家康が詰めていた息を吐いた。