第34章 呪いの器(三成君)
三成「舞様と文のやり取りをしていましたよね?
舞様は時々文の内容をお話しくださることがあったので、千代姫が湯治に出たと聞いておかしいと思ったのです。
椿様が嘘を言ったと仮定し、今朝から城内は騒がしかったはずなのにお姿が見えない。
もしや騒ぎに気付かない場所におられるのではと思ったのです」
千代姫「三成様に虚言を吐くとはなんたることでしょう。
義母が大変失礼なことを…」
三成「私はこれでも信長様のお傍で仕事をしておりますので、この程度の虚言は虚言のうちにはいりません。
それに椿様は大名に叱責されたでしょうから、千代姫が気にする必要もありませんよ」
え、と言葉には出さず千代姫が目を瞬かせた。
千代姫「父が義母の嘘に気づくことはほぼないのですが、今回は知られてしまったということですか?」
三成「そのようですよ」
椿の嘘を大名に知らせた本人は、まるで他人事のように澄ました顔をしている。
どういう経緯でそうなったか千代姫が知るところではないが、三成が何かしら手を打ったのだろう。
(三成様は汚いものを知らず素直な印象だけど、やはりこの方は信長様が認めた人なのね)
舞の部屋で三成と同席した際はかまってあげたくなるような可愛い男性に見えたけれど、本来ならこうして二人で話すことは畏れ多いのかもしれない。
千代姫は敬意をこめた眼差しを三成に向けた。
千代姫「舞様のお身体はいかがですか。
体調に波があると文に書いてありましたが」
千代姫みずから舞の体調に触れた。
復旧の視察も、お守りを渡すのも大事な用事だったが、三成がここに来た本当の目的は簪を作った犯人を見つける事だ。
やましいことを率先して口にする人間もいれば完全にシラを切る人間もいる。部屋に入った時から千代姫の言動をつぶさに観察していたが怪しい点はない。
(さてどこから揺さぶってみましょうか)
ここまでの会話で不審な点がなくても、やましいと思えば核心に近づくほど感情は揺れるものだ。
紫の目が静かに光った。