第34章 呪いの器(三成君)
三成「では詳しいことは夕刻に話しましょう。
ああ、先程椿様にお会いしてきましたが夕夏姫を大事にされているのですね」
大名「溺愛と申しますか、きっとあれから娘をとったら何も残らないでしょう」
大名は家族の話をふられて苦笑した。
心から愛していた妻と政略的な意味合いで迎えた側室。
向ける愛情に差があったのは大名自身認めるところだったが、繋がった縁を大事にしたい気持ちはあった。
しかし椿は夫に背を向けて娘を溺愛するようになり、それは側室から正室になっても変わっていない。
今となっては関係修復など見込めず、お互いなるべく関与しない日々を送っていた。
三成「母娘でご旅行などされるのですか?」
大名「椿はなかなかの箱入りでしてね。
体力もありませんし旅行に行くことはありません。
この城を空けたのは実父が亡くなった時のみです」
三成「お城を空けず守っておられるとは素晴らしい奥方なのですね。
しかし千代姫は湯治に出ておられると聞きました。せっかくなのでご挨拶をと思ったのですが残念です」
大名「……?」
湯治と聞いて怪訝な顔をした大名だったがにわかに厳しい顔つきになった。
三成「では私はこれで失礼します。
部屋の件、我儘を言いました。よろしくお願いします」
穏やかな表情で礼をする三成に、大名は丁寧すぎるほど頭を下げた。